小酒井不木
底本:「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」論創社
2004(平成16)年7月25日初版第1刷発行
初出:「子供の科学 二巻三〜五号」
1925(大正14)年3〜5月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
小酒井不木
木村さんも、竹内さんも仕方なしに俊夫君に身体検査を受けました。ことに竹内さんは嫌な顔をしました。すると俊夫君は意地悪くも、馬鹿丁寧に、竹内さんの洋服のポケットをいちいち調べました。しかし白金の塊は木村さんからも竹内さんからも出てきはしませんでした。
「これで身体(からだ)の外側の検査が済んだから、今度は中側です」
「え?」
と言って木村さんはびっくりしました。
「中側の検査とはどういうことです?」
「白金の塊は細かにすれば飲むことができますよ。だから身体の中へ隠すことができるのです」
木村さんはあきれたような顔をしましたが、
「すると、腹をたち割って検(しら)べるのですか」
と冗談半分に言いました。
「木村のおじさん!」
と俊夫君は真面目な顔をして言いました。
「冗談はやめてもらいましょう。僕が身体(からだ)の中を見たいと思うのは、見なければならぬ理由があるからです。これから駿河台の岡島先生のところへ行って、二人の身体をエックス光線でみてもらいますから、すぐ自動車を用意してください」
俊夫君の言葉がいかにもハキハキしていたので、木村さんは何も言わずにおばさんを近所の自動車屋へ走らせました。私は俊夫君の命令で岡島先生へ電話をかけました。まだ夜が明けぬ前でしたが、先生はいつ来てもよいと快く返事をしてくださいました。岡島先生は医学博士で、俊夫君が先生について医学を修めたときに我が子のように可愛がって教えてくださった人で、俊夫君のことなら、どんな難題でも聞いてくださるのです。だから、俊夫君は先生のご都合を聞かぬ先に自動車を用意させたのです。
やがて自動車がきましたので、私たち四人は人通りの少ない黎明(れいめい)の街を駿河台さして走りました。四人はとかく黙りがちでしたが、中でも竹内さんはにが虫をつぶしたような顔をしていました。
私は自動車にゆられながらいろいろ考えました。俊夫君が申しましたように、エックス光線にまでかけて検査するには、それだけの理由がなくてはなりません。すると木村さんか竹内さんかどちらか[#「どちらか」は底本では「どちから」]一人が白金を飲んでいるかもしれません。私は早く岡島先生の検査の模様が見たいものと、自動車の走るのさえ、もどかしく感じました。